評伝 有馬敲
水崎 野里子・田中茂二郎 著
— 霧深い丹波の盆地で育った少年は、なぜ「反骨の詩人」になったのか。
その心の底を静かに照らし出す評伝。
戦中に生まれ、敗戦の混乱のなかで青春を迎えた有馬敲。その詩行の奥に流れる体験と思索を、確かな筆致で掘り起こしたのが本書である。
京都・亀岡の霧に包まれた風土、寒天産業に息づく農村の暮らし、家族の記憶。少年の日々を形づくった土地の気配が、のちの詩作品にどのように結晶していったのか。本書は詩行と史実を行き来しながら、その源を静かにたどる。
敗戦の日、信じていたものが一瞬で崩れ落ちた衝撃。戦後、教師や大人たちが次々と“民主主義者”に衣替えしていく姿を前に、少年は権威への深い不信と、ことばへの根源的な問いを抱くようになる。この体験が、有馬をして「自らの身体を通過しない思想は信じない」詩人へと導いた。
本書は、華々しい逸話を追うための評伝ではない。丹波の歴史や宗教、家族の営みといった生活の細部を丁寧に照らしながら、ひとりの詩人が自らの場所を見出していく静かな歩みを描き出す。
時代の陰影と、ひとりの詩人の内奥が、透明な光を帯びて立ち上がる——。有馬敲を読む人にも、初めて触れる人にも開かれた一冊である。
【目 次】
Ⅰ エンピツと紙切れ 田中茂二郎
1 癒えることのない傷跡――敗戦のトラウマ
2 海霧の国、寒天の里・その一
3 海霧の国、寒天の里・その二
4 火柱が立っている
5 文学と反戦運動――同志社のころ・その一
6 「キサラギ」の前衛たち――同志社のころ・その二
7 〈いえ〉という漬物石
8 論争の時代・その一
9 論争の時代・その二
10 模索と転換――替歌と創作わらべうた
11 プレヴェールへの想い、子どもの力
12 「関西フォーク」との運命的出会い
13 すべての道は京都へ
14 高田渡とゲーリー・スナイダー
15 「ほんやら洞」の時代
16 支店長の恋
17 転職
18 鬱の時代のソネット
19 オーラル派、北の大地へ
20 詩朗読の魅力
21 流通革命の最先端で
22 酒と忍従の日々・その一――遍路のくにへ
23 酒と忍従の日々・その二――紛争
24 世界へ
25 国際派詩人ということ
26 京都という町
27 日記文学のおもしろさ
28 生活語詩運動へ
29 京ことばと女性詩
30 おわりに
Ⅱ 芸術の現場・現場の芸術 水崎野里子
1 有馬敲との出会いと「日本国際詩人協会」設立まで
2 有馬敲の著作と海外交流
3 芸術の現場・現場の芸術
4 アラン・ラウと有馬敲、京都のビート詩人とオーラル派
5 有馬敲とゲーリー・スナイダーとの出会い
6 海外の有馬敲
7 岡大介『かんからそんぐⅡ 詩人・有馬敲をうたう』発売記念コンサートと詩の朗読会
8 「響き合う東西詩人――ポエトリーリーディング in Kyoto」
9 ジャーメインとミランと有馬敲
あとがき
有馬敲資料
【著者プロフィール】
水崎野里子(みずさき・のりこ)
一九四九年東京生まれ。一九八一年早稲田大学第一文学部英米文学科博士課程修了。現在大東文化大学講師。詩集『アジアの風』他。訳書『現代アメリカアジア系詩集』、『現代世界アジア詩集』。ストルーガ詩祭・ギリシアWCPなど英語による国際詩祭参加。日本国際詩人協会(本部京都)会長。インターネットによるバイリンガル誌「天橋」Ama-Hashi編集部所属。
田中茂二郎(たなか・もじろう)
一九五一年三重県生まれ。一九七六年立命館大学法学部卒。京都市内の中小業者の組合で税務経理・労務等の仕事に従事。一九九六年から加藤周一さんを囲む勉強会「白沙会」に参加。九七年に退職して編集者に。九九年、「現代京都詩話会」に入会、有馬敲を知る。二〇一一年度「詩人会議」新人賞評論部門入選。津市在住。妻と二人暮らし。
〔書籍情報〕
Kindle版
出版日:2025年11月14日
価格:1500円(税込)
リフロー型