詩集 

月夜の自転車乗り

原 葵 著


―もう足もないのに
どこかへ走っていかなくちゃならない
もう膝もないのに膝をこわし
足首もないのに足首をこわし
でも 何かを探してどこかへどこまでも行く
(本書「背面跳び」より)

詩集『月夜の自転車乗り』は、身体の一部を失いながら、なお語ろうとする「わたし」の旅を描く。

失われた背中、血のにじむ指先、噛まれた足。
喪失の感覚を起点に、語り手はさまざまな存在に変身しながら、夢と現実、記憶と幻想のあわいを行き来する。

―乳房をはずして眠る
夜にはさまざまなものが巡礼となって乳を呑みに来るから
羊 人魚 病気の蛍 毛深いカメレオン
前世で私が愛した男たち
愛さなかった男たち
(本書「乳房をはずして」より)

猫、鰐、モグラ、そして二階にひそむ幻の夫。
繰り返される不在や拒絶のなかで、「書くこと」「語ること」は何をなしうるのか。

本書において、詩とはつねに沈黙の側にあり、語られなかった声に触れるための、小さな方法でもある。

―生まれてこなかった者の
悲しみと まどいは どこへ行くのだろうか
わたしもまた 生まれてこなかった者の
ひとりかも知れない
(本書「ミドリ叔母さんの唄」より)

語られなかったものに、そっと触れようとすること。
この詩集は、その繊細な試みの集積でもある。

【目 次】
Ⅰ 背面跳び
背面跳び
乳房をはずして
本当の名前
髪の毛をまくり上げて
足を齧る
Ⅱ 月夜の自転車乗り
ニンゲン豆
発明と発見
影絵のように
忘れ物
夜の川
月夜の自転車乗り
Ⅲ ああ もし わたしに
みょうが畑
ああ もし わたしに
そしてまた 今夜も
がっがっがっと
まぼろし日記
Ⅳ ミミンガ
無人駅
熊が いる
消しゴム
まぼろし
ミミンガ
Ⅴ ミドリ叔母さんの唄
箱の中の夢
箱の中のオテウ
書いたり消したり
ミドリ叔母さんの唄
開けっ放し
墓の中のオテウ
解説 声なき者のための旅路 ――詩集『月夜の自転車乗り』によせて 森 あるか
著者あとがき


〔書籍情報〕
Kindle版
出版日:2025年9月18日
価格:800円(税込)
リフロー型


POD版
出版日:2025年9月18日
価格:1,210円(税込) 

125頁

〔著者略歴〕
原葵(はら・あおい)
早稲田大学第一文学部仏文学専修課程卒業。
著書  詩集「野猿伝説」(思潮社)
    詩集「遠近法の書」(思潮社)
    詩集「変装術師の娘」(沖積舎)(電子書籍版:おいかぜ書房)
    詩集「花狂い」(おいかぜ書房 電子書籍/POD)
    「猫の生活読本」(主婦と生活社)
    「マッカナソラトビーとんだ」(青弓社)(電子書籍版/POD版:おいかぜ書房)
    「裏地とボタン商会の猫」(以心社)(電子書籍版:おいかぜ書房)
    「くじら屋敷のたそがれ」(国書刊行会)他。
訳書  「エルフランドの王女」(ロード・ダンセイニ  沖積舎)
    「影の谷物語」(ロード・ダンセイニ  ちくま文庫)
    「ヤン川の舟唄」(ロード・ダンセイニ  国書刊行会)他。